半導体の性能を飛躍的に伸ばす新しい微細加工技術が進展する。東芝やニコンの企業連合が極紫外線(EUV)と呼ぶ次世代露光装置に使う高感度感光材(レジスト)を開発した。海外勢も光源の出力向上を実現。いまの技術では困難とされていた回路線幅10ナノ(ナノは10億分の1)メートル以下の「壁」を突破する道筋が見えてきた。量産ターゲットは2017年。個人が膨大な動画やデータを扱う時代は目の前にある。
線幅10ナノメートル以下
光源の波長は短ければ短いほど、より微細な回路を加工できる。現在最先端の半導体は回路線幅14〜15ナノメートル。波長193ナノメートルのArF(フッ化アルゴン)レーザーで量産している。10ナノメートル以下の半導体を効率よく作るにはEUVの実用化が欠かせないが、これに適するレジストが必要だった。
新しいレジストを開発したのは東芝、ニコンに富士フイルムや信越化学工業、大日本印刷などを加えた国内11社が出資するEUVL基盤開発センター(EIDEC、茨城県つくば市)。波長が13・5ナノメートルと極めて短いEUVに高感度で反応する金属由来のレジスト素材を開発した。通常の有機化合物のレジストと異なり、EUVを吸収しやすい。露光時間を短くでき、従来比10倍の速さで回路を形成できる。
現在ArFレーザーの露光装置は1時間あたり200枚の半導体ウエハーを加工できるが、従来のEUV露光で有機化合物レジストを使うと同50枚しか処理できなかった。新開発のレジストを使えば露光工程の生産性は大幅に向上する。
線幅17ナノメートルの回路パターンをEUVで素早く形成する実験に成功した。米インテルや韓国サムスン電子、半導体ファウンドリー(受託生産会社)最大手のTSMC(台湾積体電路製造)と共同で研究を進める見通しだ。
生産性にかかわる光源の出力向上技術も進んできた。半導体露光装置で世界首位のオランダのASMLは従来の数十ワットから約80ワットまで引き上げることに成功。EIDECが開発したレジスト技術と組み合わせれば、10ナノメートル以下の半導体量産に向けて大きく前進する。
能力2〜4倍に
7〜10ナノメートルの半導体が実現すれば、プロセッサーの処理能力は2〜4倍に向上し、フルハイビジョンの4倍の解像度がある4K動画をスマートフォンで送受信できるとみられる。メモリーの記録能力も大幅に増え、SDカード1枚で数テラ(テラは1兆)バイトのデータを記録できる見通し。
EUVは技術的なハードルが高く、実用化時期は業界各社が想定していたよりも大幅に遅れていた。このためメモリーなどではトランジスタを3次元に積層したり、半導体チップを積み重ねてひとつの製品に組み立てたりする技術を併用して性能を高めてきた。
EIDECは2011年に設立し、EUV露光の要素技術の研究開発に的を絞ってきた。新開発のレジストは出資企業の富士フイルムやJSR、東京応化工業が世界の半導体メーカーに提供する予定だ。(細川幸太郎)
▼EUV露光 半導体の回路パターンをシリコン基板上に転写する露光技術の1つ。光源に波長が13・5ナノ(ナノは10億分の1)メートルと極めて短い極紫外線(EUV)を利用する。現在主流のArF(フッ化アルゴン)方式の波長193ナノメートルと比べて10分の1以下。露光技術では光源の波長が短いほど、微細な回路線幅を実現できる。ただ現状ではEUV光源の出力が低く、生産速度が遅いため実用化には至っていない。